ここ数年、飛騨(高山市・飛騨市・下呂市・白川村)でも、移住者(I・Uターン者)が空き家や空き店舗を自分たちの手で改修するセルフリノベーションで作ったお店や場所が増えています。手間も時間もかかりますが、その場所や建物にじっくりと向き合いながら、自分たちで出来るところから始めてみる。実際に飛騨に移住し、セルフリノベーションでお店や場所をつくった方にお話を伺いました。
「自分の頭の中にあるお店のイメージを人に伝えることが出来なかった。すべてを伝えることは難しいと思いセルフリノベーションでお店を作りました」
JR高山駅から徒歩5分ほどの国分寺通り沿いで、「結 Japanese Pub YU」を今年4月にオープンした店主の佐野結一さんは、お店の改修をほぼ自分自身で行った理由をそう話してくれました。
佐野さんは静岡県出身、飛騨に移住して5年。東京で10年ほどレストランのバーカウンターやウエイターの仕事をしていましたが、一度都会での生活を離れ乗鞍にある山小屋にて半年間勤務。その後、高山市に本格的に移住し、知り合いの紹介で市内の酒蔵で働き始めました。
「高山に移住したのは飛騨の自然と町の風景や暮らしが、東京での暮らしと全く違っていたところに惹かれたというのがありますね。以前、旅で訪れた時にもすごくいい町だなと思っていました。乗鞍の山小屋で働いている時に高山を再び訪れ、やっぱりいいな、ここだったら住むのにいいなと再確認しました。
今までの経験から、新しい町に行っても、たくさんの山や滝などの自然のあるところでの生活なら、楽しみを見つけられることは分かっていたし、ほぼ知り合いのいない場所でもあまり不安はなかったです」
市街地で働きながらも、いつか大好きな山での暮らしを視野に入れていた佐野さんですが、高山で出会った奥様と結婚、そしてお子さんも生まれ、市街地での現実的な暮らしを考え始めたそうです。
「飲食の仕事をやってきたので、こういうお店を作れるというイメージが自分の中にありました。まだ高山にはカクテルを出すお店が少なかったし、地元の果物や野菜を漬け込んだシロップをカクテルに使えば、カクテルを通して飛騨食材の豊かさやおいしさを伝えるという、あたらしいスタイルができると思ったんです。飛騨には日本酒もたくさんありますしね」
お店を出すために物件探しを始め、自然を感じる川沿いの物件を希望していたがうまく契約まで進まず、知人が以前使っていた現在の物件を借りることになった。
「DIYの経験は特になかったけど、自分の部屋の模様替え的なことはよくやっていましたので、切って、貼って、塗るといった簡単なことはすぐにイメージできました。工務店さんには水回り、防火の壁の作成、ダクト工事のみお願いし、他はほぼ自分で2~3ヶ月かけて。改修中に大変だったのは飛騨の寒さ。それ以外は楽しんでやりました」
お店の中には、高山の古道具屋やセカンドハンドのお店で購入した古道具がインテリアとして飾られおり、ひとつひとつにこだわりが感じられます。
店名の「結 Japanese Pub YU」には、店主の名前の一文字が使われていますが、佐野さんのたくさんの思いも込められています。
「来客時の席はきちんと決めず、カウンターまでオーダーしに来てもらうスタイルにして、お客さんにも動きが出るように作っているので、観光客同士や、観光客と地元さんをここで結ぶ場にできたらいいなと思っています。あと飛騨の食材と観光客の方を結ぶ。人と人、人と物、酒を結ぶ空間でありたい。居酒屋でもバーでもなく、パブリックを語源とするパブという名前にこだわった理由もあります。
地元の人にとってはより庶民的な、仕事が終わったら気軽に飲みに行くような。観光客にとっても現地の人と知り合って情報収集や発信が出来るようなスペースになることが理想です」
「飲み物がたくさんあることは大事だし、私の武器です。しかしそれはひとつのツールに過ぎません。選曲や音にもこだわっているので、この空間全体を楽しんでほしい。海外の方が、慣れないお座敷とかであぐらをかいて、カクテルグラスでマティーニ飲んでいる姿なんてのも嬉しいし」
お店のことを話す時の楽しそうな佐野さんの表情から、飲食店というだけでなく、お店という空間を楽しんでほしいという強いこだわりを感じました。実際に完成した内装を見ると、すべてを伝えることは難しいと思いセルフリノベーションでお店を作りました、という佐野さんの言葉にも納得しました。
飛騨には観光客がたくさん歩くような場所にも、まだまだ趣のある古い古民家が空き家で残されています。すべてを綺麗に改修しなくても、想いを込めて、古い家の良さを生かして丁寧にリノベーションすることで、たくさんの人々が集まる場所に生まれ変わるようです。
【物件/セルフリノベーション】 |
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