うちのボロ家にワクワクする! – Vol.1 – ~あばら家古民家の自力改修エピソード~

– Vol.1 - 密かに進む手づくりリノベ

「飛騨に住む」。

それを望む人は、“飛騨らしい”家(=古民家)に住むことを夢見る人が多い。が、空き家がたくさんあるからと言って「夢の古民家暮らし」はそうそう簡単にはいかない。

古民家は「古い家」。

年数が経った分たいがいどこか傷んでいて、手入れをされていない空き家はすぐに「住める」状態にない場合がほとんどだからだ。

 

筆者が住む古い借家も「満身創痍」。

隙間や傾きだらけで戸が開かなくなったり閉まらなくなったりはずれたり。雨漏りはする。開き戸の取っ手はもげる。天井の梁(飾り用)は落ちる――などなど様々な目に遭ってきた。

それでも「住める」レベルの家はまだマシだ。

 

住み手のいない家は荒れてゆく。

わかっていても、改修する余力のない家主さんは不本意ながらも家を放置し、結果、売ることも貸すこともままならず朽ち果てる家のなんと多いことか。

 

夢を夢のまま終わらせない

それでは、古民家も古民家に住みたい人も、あまりにもったいない。そう思っていたら、最近はよそから来た人たちが、縁あって手に入れた、もしくは借りた古民家のリノベーションに挑戦する動きが頻繁だ。

 

業者に頼めばかさんでしまう費用も、自分で直せば材料分だけ。好きにアレンジも施せるし、なにより手をかければそれだけ愛着が湧くものだ。

試行錯誤に明け暮れ、時には友人知人など周囲の協力を得て、ゆっくり、しかし着実に手づくりリノベの道を歩む移住者には、自治体の支援も追い風となっている。

現に高山市でも、市民になった移住者へ「空家取得費・改修費補助金制度」(※)を設けバックアップしている。これを利用し、直した建屋を自宅兼ゲストハウスやカフェとして開業している元気な移住者も増えてきている模様だ。

 

そこで、ふとある疑問がよぎった。

古民家が好きなのは「移住者」だけなのか?

そんな時に出逢ったのが、小林修二さんだ。

小林修二さん

名物人間の別の顔

小林修二さんは、床屋さんだ。

高山で生まれ育ち、若い頃はいったん岐阜方面へ出たものの、今は父親から受け継いだ家業をきっちり守っている。

そのお店は、外観も店内も非常に個性的だ。

店には近所の人が入れ替わり立ち替わり訪れる

というのも、店は修二さんのコレクションである昭和の香り漂うレトロな品々で埋め尽くされているからだ。初めて見た人は驚き「タダの床屋じゃない」ことを知る。装飾品は、時には自分で作ってしまうこともあるというから、「好き」に対する情熱は半端ない。

実は店にあるコレクションはほんの一部。保有しているお宝は無尽蔵にあり、そのことで取材されることも多い修二さんは、地元でも“ちょっと知られた”人なのだ。

そして修二さんにとって、このコレクションと古民家が切っても切れない間柄にある。

店は長旅の途中に訪れる外国人も多いという。

高山の町なかにあるお店は、国内外の観光客が多く行き来し、修二さんは通りすがりの人に気さくに声をかけている。写真を撮ってあげ、団体さんを笑わせ、手慣れたジェスチャーと片言英語で外国人観光客の散髪もやっている。サービス精神旺盛な名物床屋さんで通っている。

 

また、修二さんは養蜂家でもあるのだ。

郊外の里山にたくさんの巣箱を仕掛け、採れた日本ミツバチの蜜を奥様が朝市で商っている。

筆者もこの「日本ミツバチ」がキッカケで、奥様から修二さんを紹介された一人だった。

 

個性的な理髪店を訪れ、日本ミツバチ談義をするはずが、筆者の古民家好きを知るほどに、観光客向けの“おもてなし”スマイルだった修二さんの表情が変わっていった。

「俺の古民家。いっぺん見に来るか」

 

古民家は大人の本気のオモチャ箱

冬の訪れ近い谷あいの里に、隠れ家のようなその古民家を訪れたのが2016年11月。

3年前からコツコツ直しているという、見るからに年代物の家は蔵までついた立派なものだ。が、どこもかしこもかなり傷んでいる。

 

靴のまま上がった建屋内は、木材や機材に加え、おびただしいコレクションの数々――映画館の手描き看板やら、往年スターの等身大看板やら、古美術品やら箪笥やらが、所狭しと雑居している。

それらの間を縫いながら、築120年と言われる天井や立派な梁、古材を使った柱や、奥の土間にわずかに覗ける竃などを順々に教える修二さんは、店の前でおチャラケていた時とは違う、秘密基地を教える子どもの、やや緊迫した目をしていた。

屋根裏はさながら昭和ミュージアムだ

「見に来るか?」が「手伝ってくれるか?」に変わり、「完成したら」の話になって、

「皆呼んで飯食うか」

「あんたここでコーヒーふるまったら」

「あの竃でメシ炊くんや」

妄想はみるみる膨らんでいく。

修二さんには、埃まみれの薄暗い部屋で山積みになったガラクタの先に、すでに楽しい風景が見えているのだ。

 

オモシロイ空気が伝染して、「手伝える時に手伝う」にわか助手が誕生したはいいが、大工仕事など全く不案内の知識なし・技なし・体力なしの素人ができることなど微々たるもの。それでも「一緒に作業してくれるだけで助かるんや」と修二さんは真顔で言う。

心身ともに消耗する単純作業は一人でやっていると気が滅入る。それだけ手作りの改修は精神的にも負荷が大きいようだ。

現場作業は孤独にもさいなまれる

要所要所で身近な人に手伝ってもらってはきているものの、いつもいつも頼むわけにはいかない。

そこへいくと、頼りない助手でもコンスタントに加わる人手の足しはありがたいらしい。

 

果たして、どこまで行くか。どこへたどり着くか。

本人はもとより、途中参戦の筆者もワクワクの「古民家再生」物語が、始まったのだ。

– つづく –

※ 空家取得費・改修費補助金制度

  • 空家の取得及び改修にかかる費用の2分の1以内の額で1,000,000円を超えない額を補助。(土地の取得費は除く)移住後5年間定住の確約が必要。
田口 真由美
田口 真由美

千葉県出身。ときどき旅人。2011年1月より飛騨へ移住、現在高山市在住。発酵・燻製をライフワークにこだわりの素材食に勤しみ、適宜アレンジを加えた料理の提供やワークショップを実施。古き良き暮らしを残す飛騨の素晴らしさを、独自取材による記事としても発信中。

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