移住者や、新しい起業家は魅力的な人も多いが、親子何代も飛騨で生業をしている人達がいます。そんな飛騨にゆかりのある人達が何を考えて、何をしているのかを、自分も印刷会社の5代目になる私、住(すみ)がインタビューしました。こんな素敵な人達と組んで何か始めるのも面白いかもしれません。
「私で12代目になる料亭を営んでいます」
と話す角竹正至(すみたけ せいじ)さんは江戸末期に創業し200年以上続く飛騨高山の料亭、角正の12代目当主です。子供の時から料亭の長男として育った角竹さんにとって、家族や親族からの期待も大きく、家業を継ぐのは当然の流れだったようです。大学卒業後、京都の料亭を経て飛騨に戻ってきました。
「飛騨に帰ってきて、実家の料亭で働きだした頃は、伝統をどうやって守っていくのか、どうやって自分が経営していくのかと考え、相当なプレッシャーを感じ萎縮していました。今だから言えますが、正直やめてしまおうかなと思った事もありました」
角正は、武家屋敷を譲り受けその中で営業を行う日本でも珍しい料亭で、岐阜県内の料亭の中でも一二を争う歴史を持っています。その武家屋敷というハード面を守っていく事、そして料亭としてお座敷文化を守っていく事、先代から脈々と続く伝統を守る事を日々考えていくことは、かなりのプレシャーだと簡単に想像できます。
「今では、自分が当主になり、『飛騨の伝統的な武家屋敷の中で料亭をするという事』『お客様に心から心地よく楽しんでもらう事』を守っていけば、それ以外は自分のやりたい様にやっていけばいいのだという想いに変わってきました」
例えば、文化財にもなっている建物はしっかりメンテナンスや庭の手入れもおこない、守っていくこと。ご年配の方むけにお座敷しかなかった設えを、椅子とテーブルの席を用意するなど、お客様の為に変えていく事。
大切にする部分は守り、自分の信念を持って変える部分は変えていく。商いをする自分自身が活き活きと働く事によって、お客様にも心地よくなってもらえる設えができるはずと目を輝かせて話していました。
「飛騨は、いい人が多く、人と人が密に繋がっていて、皆が街の事を考えている、そんな地域だと思っています。ただ単に人口が少ないからと言う人もいるかもしれませんが、飛騨の誇るべき特徴です。ただし、交通の便がよくなったことで、外の文化と混じり合うようになってきました。その結果、昔からある飛騨のいい面が失われてしまうのではないかという不安もあります。一方で、古いものをかたくなに守ることだけがいいわけではありません。それは本当に飛騨にとって必要なものなのか。取捨選択して残していくことが大切だと考えています」
「移住や、外の文化が入ってくる事自体は悪い事ではないと思いますが、元々長く住み続けている地元の人達の意見が主流となる状態にしていきたいです。そして移住してくれる方も飛騨の文化を楽しみながら、この風情のある街の中で生きていく事を楽しんでくれるような人だといいなと感じています」
角竹さんも実際、飛騨についてとても詳しい移住者と出会って驚いた経験をされた事があります。
「飛騨が好きで移住された方の中には、地元の人より飛騨人らしい人も多いと感じています。やっぱり地域に興味を持ち色々なところへ行き、地域の事を多く知っていて、飛騨のいいところを紹介できる人は素敵な方だと思っています。実は、私達の仕事でも飛騨を語る事は重要な能力のひとつになってくるので、角正でも一緒に働きたいくらいです」
と笑顔でお話しされました。敷居が高いと思われている伝統的な料亭でも、出身地ではなくどれくらい飛騨の事を理解しているか、飛騨に愛着があるかを大切にされています。
「相変わらず安定して美味しい、心地いい料亭で居続けたいと思っています。私達は続けていく事が大切だと考えています。たとえば前回10点満点を付けてくれたお客様がいたとしても、リピート時にはその上を目指さないといけません。それが私達の考える『相変わらず安定して美味しい、心地いい』状態です。外からは変わっていない様に見えても、実は内側の私達の中ではすごく変化している、そんな料亭にしていきたいです。そうやって次の代に引き継いでいきたいです」
と話す角竹さんは、実は既に長男に家業を継がせるべくトレーニングを始めています。
親から子へ脈々と受け継がれていく中でも、大切な部分は頑なに守り、時代や、お客様に合わせ何気なく変化していくこと、それを外には見せないところに飛騨の人らしさを感じました。
こんな飛騨の12代目の心意気を感じに、一度飛騨を訪れてみるのもいいのではないでしょうか?
店舗情報 |
---|
角正・飛騨高山 |