飛騨の仕事事情 [前編]

2018年が明けて間もない日、飛騨高山にあるコワーキングスペース〈co-ba HIDA TAKAYAMA〉で移住者座談会が行われました。
この座談会は〈未来の地域編集部〉の企画として、「飛騨の仕事事情」という独自のアンケートをとった結果を見ながら行ったもの。移住者と編集部が仕事、収入、暮らしにまつわるリアルなあれこれを話し合いました。
会場にはコロカル編集部もかけつけ、都会の働き方との違いや移住への考え方など客観的な視点も加わり、盛りだくさんな内容となりました。
移住して暮らしていけるのか、仕事はどうするのか、という、移住を考える多くの人が気になる部分を、本音トークとデータをもとに紐解いていきます。

 

ゲスト移住者

 

沖中 大志
TAISHI OKINAKA

【Uターン・高山市出身】2016年にUターン。両親が経営する旅館で働きながら、2017年に1日1組限定のキャンプ場、ヒトハリをオープン。自身もキャンプに親しみながら、奥飛騨での暮らしを満喫中。

 

横関 万都香
MADOKA YOKOZEKI

【Iターン・奈良県出身】奈良生まれ大阪育ち。23歳の時に渡加。 ツアーガイドの仕事につき、天職だと思い 7 年間ロッキー山脈の麓バンフで暮らす。帰国後は鎌倉や長野県茅野市で暮らすが、夫婦二人でゲストハウスを開業するため 2011 年 4 月に岐阜県高山市へ。2012年第1子が誕生し、家族3人で世界中からのゲストを迎える。今年 4 月第 2 子誕生予定。

 

中村 匠郎
TAKURO NAKAMURA

【U ターン・高山市出身】銭湯ゆうとぴあ稲荷湯 4代目(予定)。高校生時の海外留学以降、5ヵ国 10年弱の就学・就職経験の後、2017年 10月に帰省。現在は銭湯・ゲストハウス cup of tea(2018年 2月開業)を起点とした街作りに奮闘中の 33歳。

 

大田 渓太郎
KEITARO OTA

【Uターン・飛騨市出身】U ターンしてから約 1 年後の 2016年よりOK PAPERS(オーケーペーパース)という名前でイラストを描き始める。同時期より City Pops(シティポップス)としてデザイン、データ入力、POP作成、サイン作成画像加工等を請け負う。
かねてからの夢であった喫茶店を2019年春にオープンするべく日々奮闘中。
家族構成は妻と二人の息子。好きな食べ物は卵料理。牡羊座、B型の35歳です。

 

田口 真由美
MAYUMI TAGUCHI

【Iターン・千葉県出身】ときどき旅人。2011年1月より飛騨へ移住、現在高山市在住。発酵・燻製をライフワークに、こだわりの素材食に勤しみ、適宜アレンジを加えた料理の提供やワークショップを実施。古き良き暮らしを残す飛騨の素晴らしさを、独自取材による記事としても発信中。今回は、未来の地域編集部の一員として参加。

 

 

移住後の仕事は自営業が増える。一歩踏み出すきっかけは?

 

移住をしようと考える誰も最初に気になる、仕事のこと。

グラフで見ると、飛騨に移住した人の多くは、会社員から自営業になっていることがわかります。

安定した会社員よりも、リスクも大きい自営業を選択するのはなぜか。

そこに踏み出すには、どんなきっかけがあったのでしょうか。

 

 

未来の地域編集部(以下、編集部):

まずは、54名の移住者を対象にとったアンケート資料から、「移住前、移住後の仕事はなんですか?」という結果を見てみたいと思います。移住前は会社員、移住後は自営業が多いという結果になっていますね。

ゲストのみなさんも会社員を経て自営業になったと思いますが、みなさんはそもそも、飛騨に来て起業するつもりがあったんでしょうか。

 

中村匠郎(以下、中村):

僕は起業するつもりはなかったですね。グローバルな仕事をしたいと思って会社に就いていたので、その時点では実家のお風呂屋さん(ゆうとぴあ稲荷湯※1)というドローカルなところに関与するとは微塵も思っていなかったですし、父親もそこは期待してなかったです。

※1  岐阜県高山市の町中、高山陣屋のすぐそばにある創業74年の銭湯。ジャグジー、サウナ、薬湯等があり、観光エリアにも近いため、近隣住民の毎日のお風呂・交流の場としてだけでなく、近年は国内外の観光客の利用者も増えている。

前職は経営コンサルタントをしていました。ハードな仕事で1日17時間くらい働いていましたね。毎日帰宅はタクシーで、夕飯もコンビニのおでん、という生活でした。

だた、そんな生活の中でもグローバルな仕事をするということの目的はなんなのか、という問いが常に頭の中にあって。そもそも幸せになるために生きているんだ、という考えに切り替わった瞬間に、「会社員」というチョイスは幸せではないと思ったんです。それならば、自分でやっちゃった方が自分の人生のイニシアチブがとれて、幸福度を上げられるよなと思ったのがきっかけです。

 

横関万都香(以下、横関):

私は、もともとゲストハウス・宿をやるために高山を選んで引っ越してきました。

きっとみんな都会で会社勤めを経験していくなかで、何かしらの疑問を持ち、好きなものを扱って生活を成り立たせるという暮らし方があるということを知ったと思います。そして起業や移住を意識したり、決意する人が多いのかなと感じます。

高山で暮らしてみて、自営業で好きなことをしながら幸せに暮らすひとが結構いるなと感じます。私は若い頃は会社員しか頭になかった気がしますね。

 

編集部:

経験を積んで30代になって視野が広がり、次は地方で自分のやりたいことをやってみよう、という移住者が多いなかで、25歳で移住した沖中さんは、どんな気持ちで飛騨にUターンしたんですか?

 

沖中大志(以下、沖中):

一番は家族かなと思います。高校の時から寮で暮らしていて、中学までしか家族と暮らしていなかったんです。おじいちゃんおばあちゃんもまだまだ元気ですけど、いっときおじいちゃんが病気をして、帰ってきたときに、家族と一緒に暮らすってとてもいいことだなと思いました。それまでは田舎にずっとネガティブなイメージしかなかったんですけど、田舎にはどんな仕事があるのかな、と本屋さんに行って調べていたら、『ディスカバージャパン』の地域のクリエーターズファイルとか、『ソトコト』とかの雑誌に出会い、各地で地方を盛り上げる様々なことが起こっていることを知りました。

今まで農業や旅館くらいしかこのあたりの仕事のイメージはなかったんですけど、各地で起こっている事例を見て、自分でも何かできるんじゃないかと、ワクワクしたのがきっかけです。

 

編集部:

地方には仕事はないと言われていますが、実はそんなことはなくて、仕事はたくさんあるけどなかなか就く人がいないというのがありますよね。

移住をする方、特に経験を積んだ30代後半くらいの方の場合は、そこにある仕事に就くというよりも、これまでのキャリアやネットワークを活かしながら、新しい働きかたや稼ぎかたを考えているように思います。

みなさんは移住しようと決めた時、仕事の心配をしていたんでしょうか。

移住を考えているけど一歩踏み出せない人の不安の多くは、仕事だと聞きます。この中で、移住前に仕事が心配だった人はいらっしゃいますか。

 

 

太田渓太郎(以下、太田):

実家もありますし、一番の不安ではありませんでした。一番の不安は飲食店を開くという夢が叶えられるかということでしたね。2019年までの開店に向けて準備を進めているんですが、その夢の実現についてばかり考えていました。不安より、名古屋に住んでいたときに感じていた、家族との時間をつくりにくいことからの解放の方が勝っていて。失業保険もあるし、仕事は誰かからもらえるかな、という感じでそんなに心配はしていなかったですね。

 

 

横関:

私も、飛騨に来た当初は、夫婦で仕事をしないで宿をひたすらつくっていましたが、ワクワクしかなかったです。

 

 

編集部の一言

4名のゲストの話から見ると、移住を決断をした人が求めるのは、安定した収入や安心感のある雇用ではないようです。都会での生活に違和感を覚え生き方を見つめ直す中で、自分の夢やワクワクする気持ちを大切にしていこうと決意することから始まっていくものかもしれません。

「幸福度」という言葉が印象的でした。

 

飛騨に移住して、いくらの収入で生活しているのか。

 

このアンケート結果をみると、収入が下がる方が圧倒的に多いことがわかります。

都会での収入は20万から30万が最も多いのに対し、

移住後は2人に1人が10万から20万の収入で暮らしているということになります。

 

 

編集部:

みなさん、ここからお金についての本音を聞きたいと思いますが、

収入は飛騨に来る前から何パーセント増えましたか、減りましたか?

編集部も含めてみなさん一斉にフリップ記入お願いします。

 

(一同一斉にフリップ表示)

(一同一斉にフリップ表示)

 

編集部:

未来の編集部メンバーには、150%、120%と収入が増加した人もいますが、ほとんどの方は下がっていますね。収入が減ったことで生活への影響はどうでしょうか。

 

 

田口真由美(以下、田口):

私はもういつもピンチです。

心は豊かになったし、面白いこともワクワクすることもあるから、来たことは後悔していません。とは言っても、お金がないにもほどがありますよね。 収入が減ったわりに、支出はそんなに減っていない。やっぱり現金収入は今の社会で絶対必要ですから、それを稼ぎ切れていないのはキツイです。

 

 

編集部の一言

ゲスト移住者、編集部のフリップを見ても、大半が収入は減っているのが現実。減った収入と支出のバランスについては、うまく考えて行く必要がありそうです。

ただ現代は多様な働き方が認められている時代。収入が増えたという人の中には、飛騨で暮らしながら都会の会社に属している、という人もいました。通える範囲で仕事を見つける以外にも収入を得る方法はあるようです。

 

田舎暮らしでも、意外とかかる生活費。その実態は?

 

グラフを見ると、移住後の支出は10万から20万円が半数以上という結果になっています。

都会で暮らしていたときは20万円以上かかっていたという人の割合も移住後は減り、

全体的に支出はスリムになったという人が多いことがわかります。

しかし、アンケートからは見えてこない、ゲストのみなさんの厳しい実情もあるようです。

 

 

編集部:

ガソリン代や冬場の暖房費や水道管の電熱線※4、ガスはプロパンガスだし、飛騨で必要な基本の生活費も多いですよね。

※4 水道管の電熱線:飛騨地域では冬の間、水道管の凍結を防ぐため24時間水道管を電気で温めている家が多く、そのため電気代が上がる。

 

 

大田:

僕は今もアパートに住んでいて、家賃も名古屋と変わらないくらい払っていますが、なんとか大丈夫ですね。家賃は6万円くらいですが、そのほかの支出が減るというところが大きいです。保険が夫婦で6万円、車のローンとガソリンで5万円ほどかかっています。食費は減りましたが3万から5万円くらいかな、と思いますね。

名古屋に住んでいたときは刺激物が多いので、何かあると家族で出かける、ご飯は知り合いのお店に食べに行く、服は季節ごとに買ってしまうとか、手に届くところに色々あるのですぐ買ってしまう生活でした。

こっちに帰って来てからは、家でゆっくりご飯を食べるというのがいちばん贅沢な時間だなと思うようになりましたし、服も新しいものをすぐに買っていたのが、これ10年着られるのかなという点で判断するように変わりました。その部分の支出が下がってトントンになっているのかなと思います。貯蓄は前からそんなにできてなかったですけど、まあ悪くないかなと思っています。

 

 

編集部:

ちなみに編集部の住さんもお子さんがいらっしゃいますが、どうですか?

 

 

編集部(住):

 

僕は、世帯で1ヶ月27万円くらいですね。子供の小学校と幼稚園の費用や習いごと、家賃にも4万円かかっています。

 

 

編集部:

沖中さん、安いですね。

 

 

沖中:

僕は実家暮らしなので、これは僕が生きていくための支出です。タバコ代の1.3万円と貯金分が2万円、税金や保険などで2万円くらいでしょうか。

 

 

編集部:

それでも全体的に見ると、意外とみなさんかかっているんですね。都会に比べてもっと安いと思っていたんですが、そうでもないんですね。

 

 

編集部の一言

田舎で暮らすと、生活に関わる費用が大幅に抑えられると思いがちですが、実際は家賃や光熱費などは都会と同様に必要で、気候や生活スタイルの違いで都会以上に必要となってしまう費用もあります。余計な出費をする機会が減るということはありますが、単純に安く暮らせると考えてしまうことは少し違うのかもしれません。

前編は移住前後のお金にまつわることを中心に聞いてきましたが、後編は仕事やお金の現実を踏まえながら、それぞれの移住者が飛騨で実現していく夢に焦点を当てていきたいと思います。

 

後編へつづく