100%田舎の飛騨「でも」できること・飛騨「だから」叶うこと vol.1

今回取材した鵜飼夫婦。人口1800人弱の小さな町で起業した異例のキャリアを持つ2人の生活とは?

この連載は、飛騨地区に移住や結婚をきっかけに移り住むことになり、そしてこの飛騨の地で会社の起業や、新しい活動を始めた人の現在を取材していきます。100%田舎の飛騨で、新しい生業を始めた人に聞いた、飛騨「でも」できること・飛騨「だから」叶うこと。そこにはどんな暮らしが隠されているのかを聞いてみました。

 

夫婦2人で起業した町は高齢化率37.6%の田舎町

観光客でにぎわう飛騨高山の町並みから車で約30分。コンビニはなく、本屋もない。周りは一面の山。聞こえてくるのは鳥の声と川のせせらぎ…時々子供の遊びまわる声。人口は1800人に満たない高齢化の進んだ小さな町「朝日町」に2人が起業した会社「一般社団法人ギフトピア」がある。

ご主人の鵜飼哲さん(34歳)はもともと環境省の外郭団体で働いたのち、県有林の管理の関係で初めて飛騨に足を踏み入れた。一方で奥さんの鵜飼訳丹さん(34歳)は中国内モンゴル出身。大学時代に6年間ロシアに留学し、20歳半ばに北京で貿易会社の職に就いた。「もっと世界を広げたい」という思いで、岐阜大学大学院で外国語教育を専攻。たまたま外国人児童生徒定着支援事業の関係で着任したのが高山市だった。という異例のキャリア経歴を持つ2人が、なぜ、飛騨の中でも田舎の代表格である朝日町に移住し、そして起業し、今現在にいたるかを聞いてみた。

 

「都会でも地方でも何も変わらないんです」

鵜飼夫婦が結婚と同時に起業した「一般社団法人ギフトピア」とはどんな会社だろうか。

ふと渡された会社資料には「地域資源を活用しインバウンド・アウトバウンドによる経済・文化の好循環の創出事業」と書かれている。噛み砕くと、地域の資源を生かしたあらゆる商品を支援・開発し、それを国内外のパートナーに提供・販売するという事業を2人で展開している。

具体的な内容として、

ご主人は、過去のキャリアをベースに山林経営や飛騨の木材の流通支援、カーボンオフセット/ノークレジット化の支援などを行う。さらに都市部の人材と地方の仕事のマッチングの支援業務など併せて6つの会社を兼務している。「親和性のある事業展開をすることで、どこかで事業が繋がっていきます。また柔軟な働き方をすることにより、これまでにないポジションをつくることによる相乗効果が生まれていると感じます」という。

奥さんは朝日町の豊かな暮らしを住むように体験できる宿泊施設「喜楽園」を運営。SNSインフルエンサーによるPRや各宿泊施設のインバウンド対策なども担っている。自然や文化、暮らしを体験しながら長く滞在できる場を提供し、その中で着物体験や、地元のお母さんたちから学ぶ郷土料理教室も開催している。その傍ら、自身の母国語を用いた中国語講師も務めている。「私にとっては、私生活が仕事のようなもの。自身が充実した毎日を送らなければ、良い情報を提供できません。朝日町での暮らしを自分が体験し、その素晴らしさを国内外の人に伝え、また体験してもらうサイクルを作っています」と、まさに暮らしの循環が生業に繋がっているという。

「都会でも地方でも何も変わらないんです。この地域資源がなければ、僕たちの仕事は成立しないんです。地方の魅力をわかってくれるパートナーは外にいます。この価値を認めてくれるパートナーのところに僕たちは提供するだけなので、地方があっての都会なんです」と言う。

 

100%田舎の飛騨「でも」できること

「都会でも地方でも何も変わらない」

「仕事の妨げになる素材は何もない」

「逆に飛騨だからと言って、出来ないことは何もない」

「インターネットも使える・電話もつながる・30分ドライブすれば生活に必要なものはすべて揃う。何の不便もないですよ。逆に飛騨の田舎で暮らすことによって得られるものの方が多いです」と鵜飼夫婦は言う。

 

100%田舎の飛騨「だから」叶うこと

「豊かな生活を手にいれることができました」。

その豊かな生活とは、お金じゃなく暮らしの本質の素晴らしさ。朝から夜まで明るい都会では感じることができない、夜の本当の暗さや星の綺麗さ、朝日のパワーを全身で感じることができる目覚めの朝。人と人との思いやりや温かさ。困った時に助けてくれる人と地域のつながり。朝日に来て「都会は仮面」ということに気付き、そして「暮らし・豊かさ」の本質を体感できたと言う。「だからこそ、この素晴らしい資源を僕たちは伝えて行きたい」この地域の活性化のために「地方から都市への循環」を自分たちで作り続けたいという思いが日々の暮らしの中でより濃くなり、今の事業にもつながっている。

 

今回インタビューをした私は、まさに2人の会社がある朝日町出身。小さなころから、この町での生活にコンプレックスを持ち、出身地を口にするのも嫌だった過去がある。田舎出身の人間からすると当たり前の日常に、魅力を感じることなく大人になってしまった今、移住した人から教えてもらった「豊かな暮らし」。改めて自分の故郷を見つめなおす時間を鵜飼夫婦が教えてくれた気がする。

【今回の取材:飛騨で起業した移住者】

鵜飼 哲さん

・一般社団法人ギフトピア代表理事

鵜飼 訳丹さん

・一般社団法人ギフトピア副理事

・グリーンツーリズム民宿「喜楽園」共同代表

長瀬 欣子(2017年度ライター)
長瀬 欣子(2017年度ライター)

岐阜県高山市出身。子供の成長をきっかけにUターン。現在は東京に本社のある会社のリモートワークシステムを活用し、自宅を事務所とした仕事展開。飛騨に住みながら月に数回、東京・名古屋に出向くワークスタイルを実行中。

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