長九郎農園

松永 宗憲さん & 松永 さやかさん

長九郎農園の屋号でトマトを育てている松永さんご夫婦。ふたりは静岡での会社員生活に区切りをつけ、飛騨に移住して農業の世界に足を踏み入れました。飛騨といっても、ふたりが暮らしを営むのは飛騨の最北端、富山との県境に位置する小さな集落です。山奥で土と向き合う暮らしを営む彼らに、この地にたどりつくまでのストーリーを伺いました。

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―おふたりは移住されたのが6年前ですが、何かきっかけがあったのでしょうか。

松永

静岡で社会人として働いていたのですが、30歳を機に何かを変えようという漠然とした思いがありました。ちょうどそのころ、リーマンショックがあって世の中が一気に変わり、このままでいいのかなと思ったことが大きなきっかけですね。今後どうするかを考えたとき、「食」に関する何かを始めたいというのが思いとしてありました。

仕事に関係のあったメーカーなんかがバタバタ潰れたり、大きな会社がちょっと怪しいぞと噂が立ったり・・あとは、結婚したばかりだったんですが、お互い会える時間が1日に30分程度というのもなんだかなぁーと。

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松永さやかさんさやか

朝ごはんは一緒だったけど、彼は夜も遅いし、ごはん食べたら寝ちゃうしで、家にいても会話はほとんどなかったですね。

松永

生活がずっとそんな感じだったから、よし、これは見直そうと。

松永さやかさんさやか

でも、私は「そういうものかなぁー」と思いながら過ごしていた部分もあるかもしれません。サラリーマンの家庭で育ったし、平日に会話があんまりないのもふつうだと思っていました。でも、彼が気持ちを打ち明けてくれたおかげで、サラリーマン以外の道があるのか、とそのとき気づきました。まさか農業とは思わなかったですが。一度反対もしてみたけれど、なんで反対なのかというのも自分でもよく分かってなくて(笑)。最終的には、まぁ、いいかという感じだったかな。

松永

当時から「食」に興味があったので、どうせやるなら「つくる」ところまで行こうと。そうすれば、食いっぱぐれることはないだろうと考えていました。ただ、いろいろと調べていくと、農地を借りるというのも制約があって。土地を借りるにも、その地域に通って認められないと貸せないとか。けっこうハードルが高いことも分かりました。そのとき、たまたま岐阜県で4か月の農業研修を受けて独立するというコースがあって、それを申し込んだんです。それで話を進めていくうちに、飛騨でやろうという思いになりました。自分のおじいさんが住んでいる土地ということも、後押しになりましたね。

―飛騨は昔から馴染みのある土地だったんですね。野菜の中でもトマトを選んだ、というのは何か決め手があったんですか?

松永

実は、僕は野菜が大嫌いだったんですが(笑)、子どもの頃おばあちゃんが畑でトマトをもいでくれて、いやだいやだと言いながら食べたら、それがあまりにも美味しくてトマトを克服したんです。だから、この地域から人を感動させられるトマトをつくることができたらいいなーと思ってます。でも、今でもきゅうりは苦手で、感動するものには出会えてないですが(笑)。

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―新しい場所で就農ということになるわけですが、静岡から飛騨に移住するということには抵抗はありませんでしたか?

松永さやかさんさやか

私の中では飛騨は全部一緒で、高山も白川郷も区別がついていませんでした。ましてこの集落のことは何も知らなかった。だから抵抗はなくて、山の方に引っ越すくらいにしか思ってなかったです。

松永

せっかく田舎に引っ越すなら、飛騨の中でも突き抜けて何もないくらいのところに住みたかったというのはありますね。やっぱり、飛騨と言っても、まちに行けばある程度発展しているところもあるので。そうやって住む場所もあれこれと考えて、越してきたのが2010年です。その後、1年間はトマト農家さんのところで修行させてもらって、2011年に農園をスタートしました。

―ふたりともこちらに来てある程度経ちましたが、日々の暮らしの中で、グッとくることはありますか?

松永さやかさんさやか

物々交換ですね。最近だと、猟師さんとイノシシ肉とトマトを交換したり。5個くらいでいいですか?とか聞いたりするのも楽しいです!

―ありますね、物々交換!

松永

どこから来たのか分からない野菜が玄関に置いてあることは多いですが、何よりも見返りを求めないという、ところも素敵ですね。さやかがちょっとそこの通りを歩いて帰ってくると、だいたい何かを持って帰ってきていたり、商店で100円くらいのものを買うと、「これも持ってって!」と、120円くらいのものをつけてくれたり。色々と心配になるくらいのことも多いです。

松永さやかさんさやか

会話の中で「飛騨の漬物、美味しいですよね」と話したことを覚えてくれていて、いつか「ほら、漬物つけたで」と言ってサッとくれたりする。それも、自分でつくったものだったりするから嬉しいですね。

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松永

できあいのものが少ないのはいいですね。何でもみんなつくってる。この前、味噌づくりワークショップに参加したのですが、去年つくりかたを教わったから、今年は大豆をつくって、それで仕込みました。飛騨だけじゃないかもしれないけれど、こういった手づくりの楽しみがあるのはいいところかも。

松永さやかさんさやか

逆に、まだ馴染めないところは、ずっと見られている感じはしますね。誰かが来ているときは車のナンバーを覚えていたりして。友達が愛知県から来てたなーと言われると、どきっとします。他にも、最初の頃は朝5時くらいにドアが開けられてびっくりしたことも。このへんの人はチャイム鳴らさないことも多いのですが、要件を言いながらドアを開けてくることもあって。「ガチャン、松永さん田植えのことだけどー!」とか(笑)。

松永

まぁ、見られているっていうのも、裏を返せば良い面もありますね。郵便局の窓口に行っても「この前の旅行どうでした?」とか行動がばれてる。でも、顔が分かっているから、なりすましの詐欺とかもないですし安心できますね。

松永さやかさんさやか

お隣さんはよく仕事で家を空けているんですが、生ものとか冷凍物が届くと配達している方から「預かって」と言われることがあって。それで、その方に電話すると「お、じゃあ俺の冷蔵庫に入れといてよ」とか。ダメな人にはびっくりする環境かもしれないけど、慣れたら楽ですよ。

―フランクな感じの人は確かに多いですね。けっこう地域の人にも特徴があったりしますか?

松永さやかさんさやか

そういえば、「お前どこの誰よ!」と言われる場面も多かったなぁ。引っ越したばかりの頃は、飛騨の強い口調に慣れなかったです。

松永

自分の住んでいる集落を言うと「俺の親戚がだな・・・」と始まって、近所の人が親戚だったりしますね。小さな地域なので、こちらが相手のことを知らなくても、そうやって人とのつながりを感じることもあります。

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―都市部にいたときと飛騨に来てから、暮らしの中で変化はありましたか?

松永

飛騨に来てからはあまり病気にならなくなったんですが、もしかしたら病院が近くになくて、本能的に身体が緊張しているのかもしれません(笑) それから、色んなものつくれるって分かってからは、生活するコストは少なくても良いんだと気づけて良かったです。あとは、お酒を飲む機会が本当に増えた!これは飛騨ならではですね。

―公民館飲みとかあります?

松永

このへんはねぇ、家飲みが多い。「おう、いまから来いよ!」と、なぜか家主じゃない人から電話がかかってきますね。

松永さやかさんさやか

それから、いい意味で前と変わらなかったこととして、意外と物の調達に不自由しないというのもありますね。ネット環境があれば山奥でもなんでも届くんだ!とこれは良い発見でした。

―たしかに、モノであればどこに住んでもある程度は手に入りますよね。さて、主にこれまでの暮らしについて聞いてきましたが、これからやりたいことを教えてもらえますか。

松永さやかさんさやか

冬の仕事ですね。農業の延長で加工品をつくって、私たちらしい冬ならではの働き方をしていきたいと思ってます。

松永

地域の中では、若者がいなくなっちゃって老後が心配、とみんな少しネガティブな雰囲気があって、でも、ひとりひとりと話すと根はとても明るかったりします。そういった全体に漂う雰囲気をちょっと変えたいな、という思いがあって。そのためには、明るいニュースとして若い方に外から入ってもらうことが一番なんじゃないかな、と思います。

―移住者がやってきたら、集落とはうまくお付き合いできそうでしょうか。

松永さやかさんさやか

この集落には夏の間だけ来て別荘のように使っている方もいるのだけど、地域の方とは「定住してくれるといいなぁ」と話してますね。人が減っていくのは純粋に寂しいし、外から人が来たらみんな喜んでくれるんじゃないかと思います。

松永

ここはどうしても小さい集落だから、この場所で何かをやりたい!と思って来てくれる人がいたらありがたいし、そうすることで村が元気になってくると思います。自分たちも、地域でお手伝いできることが何なのかをもっと考えていきたいですね。

どうせ田舎に行くなら思い切った方が楽しい、という松永さん。暮らし方も、夏は働いて冬は休むといったメリハリのあるものに変わっていったそうです。そんな松永さんが育てるトマトは寒暖差の影響で糖度が高く、実がぎゅっと詰まっています。お取り寄せもできますので、トマト本来の美味しさを是非味わってみてはいかがでしょうか。

 

長九郎農園

http://www.choukuroufarm.com/?page_id=209

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