株式会社 飛騨の森でクマは踊る

森口 明子さん

2015年に飛騨市地域おこし協力隊に就任し、「株式会社飛騨の森でクマは踊る(通称:ヒダクマ)」の事業を立ち上げに関わっている森口さん。事業のひとつであるデジタルモノづくりカフェFabCafeは、あたらしい空間として、クリエイターだけでなく地元の方も集まる場にできればと考えているそうです。今回は飛騨市に来るまでの話と、移住後の印象を伺ってみました。

 

―飛騨に来たきっかけについて、教えてもらえますか。

森口

ちょうどヒダクマの会社の立ち上げ時期に、社長である林千晶さんから声をかけていただいたのがきっかけです。事業内容を社長から聞いたときにとてもワクワクしました。その理由の一つとして、以前から日本の伝統が廃れていっている事態にヤキモキしており、日本伝統や芸術を新たな形で発展させ、世界へプレゼンし伝承していく活動をしたいと思っていました。二つめは、社会に還元できること、社会が良い形でまわる仕組みづくりに関わりたいと思っていました。三つめは小さな頃からの夢である場づくりでした。人が垣根なく集まれる場所、何かに夢中になれる場をつくりたかったのです。社長からヒダクマのビジネス構想を聞いて、「私がやりたかったことが叶うなんて、すごい出会いでありタイミングだ!」と思いましたね。

―最初に来たときの印象はいかがでしたか?

森口

下見で来た初回は、静かな中にも地に足が座っている安定感と凛とした空気を感じました。それは今考えると、昔から何でも”つくる”町だからかもしれないですね。建築も家具も食料も衣類も、それはもう何でも。来たときは雪がしんしんと降っていて美しい光景でしたが、冷え性の私にとっては雪国ならではの寒さが身に沁みました(笑)。それと、地域間の軋轢のシリアスな問題も最初の訪問で聞いてしまい、ずっと都会で育った自分にとってはある意味新鮮でしたね。見たことのない日本の原風景に、ただただ感動しながら長距離バスに揺られて帰ったのを覚えています。

その後、4月の古川祭りで再来した時に、その土地のエネルギーみたいなものを感じて、ここは引力がある、人を寄せ付ける土地のパワーがあると思いました。実は、飛騨への移住や全く新しいコンセプトのこの会社への転職に、周りの9割は反対でした。でもある人の言葉で決断しました。それは「Ask your gut feeling!」。その言葉をくれたのは、私がとても尊敬する人で、”gut feeling”は第六感とか直感という意味ですが、私はまさにこの”gut”を文字通り”胃腸”と解釈し、”胃腸”に聞いたんです。そしたら1秒も経たないうちに答えは出ていました。気づいたら「OK, I’m gonna go!」と返事してました(笑)

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―飛騨に移住して初めてのことだらけだと思いますが、働くこと、日々の暮らしについて教えてもらえますか。

森口

飛騨は他の地域と同様、少子高齢化と過疎化が進んでいますが、シャッター商店街とかはほとんどなく、ゆったりと心地よく人々の暮らしが息づいています。住人も過度な観光化を望んでない人が多いと思います。もちろんより多くの人達に来てはもらいたいものの、一度来て、”行きたい所チェックリスト”にチェックして「はい、満足」ではなく、また友達連れて戻ってくるね〜と通ってくれる場所にしていきたいと思っています。

日々の暮らしは、立ち上げ時期なので忙しく、家と仕事場の往復ですが、一歩外へ出るとそのゆったりとした時間の流れが心地よくて、毎朝、毎夕見られる山の神々しさに感動し、こんな所で生活できるってなんて贅沢なんだ〜!と思いながらも目の前の山積みの課題に眉をひそめているといった感じです。欲を言えばもう少し自然を堪能したり、おじいちゃんやおばあちゃんと触れ合って作物を一緒に育てたりといった、地方に住んでるならではの暮らしをしたいですね。それはこれからじわじわと一歩ずつ!

―これからが楽しみですね。都会とは生活も大きく異なると思いますが、不便さは楽しめてますか?

森口

そもそも不便さは認識していました。でもその不便さをアドバンテージにして自分で楽しみをつくり出したかったんです。それはこれからですね。東京では息をする暇もないほどに刺激のシャワーが降ってたけど、今度はそれを自分でつくりだせるすチャンスなんだと感じてます。

一方で自慢できることとしては、食べ物がとにかく美味しいのです!そもそも全ての基本である森がミネラル豊富だから水が美味しい。水が美味しいと米が、酒が、川魚が、味噌や発酵食品が美味しい。そして土が良いから畑の野菜が美味しい。味をごてごてにつけなくても、素材そのものが脳を幸せにしてくれるのです!これは最高の贅沢ですね。また、これまでに行けてなかった色んな地域が近くなったので、他の地域への探索も広げられそうでワクワクしています。

―確かに、暮らしのベースとなるものには豊かさを感じますね。生活する中で、何か心に響くことなどあったりしますか?

森口

ありきたりかもしれないですが、やっぱり人ですね。飛騨には、”相場崩し”という言葉があって、一律並びが良いとされる、”出る杭は打たれる”文化が色濃く残っています。私はもともと外資系の会社で働いていて、ある意味”出ないと打たれる”、”自分の意見を言わないと存在意義なし”という環境だったので、大きな違いに戸惑ってばかりですが、対個人で話すとビジネスでもプライベートでも、自分よりもまず他人を尊重したり大切にする人が多いことに驚きました。経済観念が先立たないというか、まずは人間を見られて、「この人と仕事をしたい」と思ったらする、みたいなところがあるかもしれないですね。それこそ、助け合いの文化が根付いているように感じます。組とか区とか祭りなどの昔からの伝統行事などは若い人にとっては面倒であったり、煩わしいかもしれないですが、それがこの土地の特徴として強く息づいているように思います。ここでは人間の本性みたいなもの試されて、むしろそれがビジネスに影響を与えることの方が大きいように感じます。

また、プライベートでもとにかくたくさんの人に助けられています。ストーブと灯油を持ってきてくれたり、雪かきや雪下ろしを手伝ってくれたり、日々の暮らしの中でも優しさを感じる場面が多いですね。

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―移住してからは、どういった人との関わりがありますか。

森口

飛騨で触れ合う人と言ったら、”つくる人”ばかりな気がします。家を改修したり、家具をつくったり、米を育て、草木で染め、畑をつくりみたいな。何かに頼るという感覚がない方が多いですね。東京だと電話一本で何でも解決できる、そしてそれがビジネスになっていくけれど、ここでは自分でやってしまう。その分、大変なことももちろんあるでしょうけど、人間の根元的な力強さがあって、動物的な感覚を失うことなく暮らしを育める。このご時世にあって奇跡的な場所だと感じます。自分自身の生き方について考えさせられる刺激的な場所でもありますね。

住んで、人と話して、暮らしを見ることで初めてわかることもあるので、地方に行って旅館に泊まるだけでは触れられない文化を感じます。飛騨にいることで、人生の大切なことを思い出すことができている気がします。

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―東京での暮らしと比べると、飛騨の生活はどうですか。

森口

先ほど言ったように生活の便が大きく変わることで体験するデメリットとメリットがあると思います。それは、これまで当然に機能していたことが突然機能しなくなることで不便に感じるだけの話で、その不便さが当然のことになるべく人間は適応していくので、ある時ふとデメリットというよりもむしろメリットとして感じるような技能なんかが付いていることもあるかもしれないですね。あとは友達と会うとか遊ぶということがぐっと少なくなりました。まあ、立ち上げの時期で今は仕事に集中したい、というのもありますし、飲みに行くのも、少し離れた地域に住んでいると車を出さないといけない、というフィジカルな問題もあるかもしれません。

―若者が集う場がまだ少ない、という感じですね。

森口

でも、ひとりの時間もいいな、と思うことも最近増えてきました。いずれは、自分でパンをつくったり、野菜を育てたり、その時間を楽しめるようになるでしょう。つくりだせば広がるし、そこにコミュニティができるから、FabCafeがオープンしたら、いろんな人が集える場になれば嬉しいです。ふらっと立ち寄ったら、いろんな年齢や職業や人種の人がいて、何かが常に生み出されている空間をイメージしてます。

―これからの野望はありますか?

森口

やりたいことはたくさんあります。大きな野望は、森がみんなの気軽な遊び場になること。そして、木を使って人が暮らす上で色んなものをつくること。箱も道具もエネルギーも。木がどんどん伐られて植えられて、森を中心にして色んなものが生み出され、新しいアイデアが交換され、人が交流し、ワクワクが広がること。

自分が林業に関わるなんて想像したこともなかったけれど、知れば知るほど木の魅力を感じていて、暮らしの中でどんどん木が使われていくようなライフスタイルのムーブメントを起こしたいです。また、プライベートでは、飛騨の皆さんのように”つくる”ことをもっとやりたいですね。まだまだ都会の癖が抜けないので。

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―移住したいという方に向けてメッセージをお願いします。

森口

空気がきれい、水がきれい、食べ物がおいしい、山の神々しさに心が洗われる、散歩は森・・いろいろとあるけど、人が良い!に尽きます。1週間も滞在すれば、飛騨の良さを体感できると思います。慣れないと不便なこともあるけれど、暮らしてみれば、そして移住者仲間をつくっちゃえばなんとかなります。是非、ゆっくり遊びに来てほしいですね。

移住後、慌ただしい日々を送りながらもFabCafeオープンに向けて貪欲に動いている森口さん。移住後は、本質的な暮らしの豊かさを感じられるようになったそうです。伝統と新しいカルチャーが混ざり合う、これからの飛騨市が楽しみですね。ヒダクマの事業が気になる方は、こちらをご覧ください。

株式会社 飛騨の森でクマは踊る

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